ミス・ウォーズリー

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「この方は私の、運命の人です」 リゼの右手が誰もいない空間を指している。空虚を指し恍惚の表情を浮かべるリゼにロイの頭は真っ白になった。リゼはこんな冗談を言うような性格ではないとロイは知っていた。真面目で真っ直ぐな人だったのに。 ロイはリゼを引きずってその場を離れ、帰宅後両親に訳を話した。リゼは病院に連れて行かれ検査を受けた。リゼの体内と食べかけのパンからは強い幻覚作用を見せる薬物が検出されたのだった。 時を待たずしてミス・ウォーズリーは逮捕され、ベーカリー“ミス・ウォーズリー”も閉店した。 店主は『運命の人に会えるパン』や『幸せになれるパン』と称し、違法薬物入りのパンを作っていたのだ。 リゼと同じように何も知らずに通い続けていた客は殆どが入院することとなった。 しかし客の全員が病院にかかったわけではないらしい。通っていた客の正確な数は警察でも把握しきれなかった。 「薬物依存に陥る可能性は少ないが念の為パンを食べた者は検査を受けるように」と警察が発表した。 リゼは比較的早めに退院し、現在カウンセリングに通っている。対して店から出るやいなやパンに齧り付いていたような客はまだ隔離病棟から出て来ていない。     
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