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終業時刻、急いでエントランスへと向かった時には既に、相良はそこで待っていた。
深緑のワンピースに、クリーム色のロングコートを羽織り、茶色のブーツを履いている様はちょっと地味に見える。
風貌も黒縁眼鏡に、少し茶色がかった黒髪を後ろで一つにまとめただけのものだったが、そんな事は一切気にしないで、まずは本題からと、和音の方から切り出す。
「わざわざ悪いな。早速本題なんだが」
しかし、そこまで言ったところで相良の方がオーバーリアクションで和音の言葉を遮ると、少し恥ずかしげに俯いてしまう。
「あの……。やっぱり、ご迷惑でしたか?」
「いや。迷惑っつーか……」
「私、知ってるんです。部長、今川さんとお付き合い、してますよね?」
そこまで言ったところで顔を上げ、意外な事を言われて固まってしまった和音を前に、訳知りを気取って相良は続ける。
「大丈夫です。私、絶対口外しません。むしろ陰ながら応援してます」
「え。うん」
最早和音には、素直に頷く事しか出来ない。
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