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「……本当にさ。昔の境遇からは、信じられないくらい。俺は今、幸せだよ」
耳元で囁くように伝えてくれる和音の身体は、僅かながらに震えている。
抱き締め合った状態からでは確認出来ないのだが、顔は確実に赤くなっているのだろう。秀臣は、そんな和音を更に愛おしく感じて抱き締める手に力を込めた。
「……和音さん。俺も和音さんと出逢えて幸せです」
お互い過去に多大なる傷を心に負って、もう二度と人から愛されたり、人を愛したりする未来はこないものと諦めていた。
そんな和音の心を秀臣が癒し。秀臣が抱えるトラウマを、和音が大きな度量で受け止めてくれて、優しく包み込んでくれたのだ。
同性カップルで、社会的にはオープンにしても大丈夫とされる雰囲気になってきてはいるが、現実ではまだまだ世間は二人に厳しくあたるだろう。
会社にも、当然の事ながら二人の関係性を明かせる相手はいない。
全くいない訳でもないのだが、それでも口外をしないと、二人が信頼した相手にしか喋っていない状態だ。
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