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だが一方で、もし彼が戻ってきてくれるならば、今夜は彼が喜ぶものを作ってあげたい。
そして、手に下げた小さなパステルグリーンの紙袋をちょっと持ち上げ、
真友子は、それをじっと見つめた。
それは、帰り道を少しだけ遠回りして、割と甘党の大祐のために買ってきた
バレンタインのチョコレート。
さすがに当日だけあって、店内は、かなりの賑わいを見せていた。
その中で品物を選んでいる時には、脳裏に次々と大祐の笑顔が浮かび、
結局、真友子は五種類ものチョコレートを買っていた。
だがこれも、今日、大祐が戻って来なければ、ただのチョコレートになって
しまう。
もう愛想を尽かされちゃった……、のかな。
そうは思いたくないが、手の中のスマホが今の現実をまざまざと見せ付ける。
そして気付けば、日暮れ前の夕方、電車に揺られる真友子の口元からは
淡い溜息ばかりが零れていた。
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