新しい季節

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俺は身内と絶縁したつもりだった。 また何か言ってくれば追い返そうと思っていた。 なのに先生は自分から和哉に連絡をしていた。 和哉の気持ちを考えて、悪意がないと分かったらバイトまで用意して気にかけてやっている。 先生が祖父さんとできなかった家族の修復を俺と和哉にはさせようとしてくれているのかもしれない。 人がいいと言えばそれまでだけど、対人恐怖症だった人が自営で多忙な中、人の面倒事をそこまで気にかけれるなんて、俺には到底できない。 俺はバタバタしたままで、キャリーバッグも片付けてないってのに………、片付け。 「ああっ!!」 「え、どうかしましたか」 「バーベキューセットを洗っていない………」 先生とバーベキューをした後に和哉が居たり、帰省したせいで、すっかり片付けを忘れていた。 「あ、じゃあ」 俺と先生は同時に声を出した。 「新しいの買いましょう!」 「地道に洗おう」 先生は俺を元気付けようと明るい声で言ったけど、俺の頭には、はてなマークが浮かんだ。 「……勿体無いよ。 先生はリッチだけど、俺は貧乏だから」 先生は焦って言い返してきた。 「べ、別にリッチじゃないですよ! アウトドアのことはよく分からないか ら…」 失言したと思い込み、先生は落ち込んでいる。 「うん、もっと色々話していこう」 「ねえセンセイ、これ食べていい?」 和哉は先生が答える前に机においてあったチョコに手を伸ばした。 「ん? このチョコ甘くない」 「ダークチョコレートです」 「へえ、チョコ好き? ルビーチョコはもう食べた?」 「いいえ。 新しいチョコレートでしたっけ。 一度食べてみたいですねえ」 「駅のホテルでフェアやってるって会社で女の子が言ってたよ。 行ってみる?」 「オレも一緒に行こうかなー♪」 「え、お前来なくていい」 「えー? お金持ちのお兄ちゃんできたみたいで楽しいのにー?」 「先生をカネヅルにするな!」 「はは、私は一人っ子なので弟は歓迎ですよ」 先生が笑った。 来なくていいと言ったのに、和哉は何故かブッフェに行く支度を始めた。 「ごめん桜は明日にしようか」 「タケルくん、明日もう一ヶ所行ってもいいですか?」 「うん どこ?」 「…祖父のお墓参りに一緒に行ってもらえませんか?」 俺はひとりでに顔がほころんだ。 「勿論だよ」 出会った頃の先生の傷は影を潜めて、躊躇いながらも人を受け入れようとしている。 新しい先生に、変わろうとしている。 共にいたわって戦い、新しい自分を見つけたパートナーを見守っていく。 それがとなりという一番近くにいる者の特権。 だから俺は何があっても先生をとなりでず見守っていきたい。 一緒に食べて、 笑って。 これからも、ずっと。
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