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「………先生、どうやってここが分かった?」
「帰り際にかずや君から受け取った住所のメモを見て来ました」
目にしただけで、痛いほど胸が締めつけられる。
先生はいつものラフな格好と違って、カッチリとした白いワイシャツを着て、ダークグレイのジャケットを羽織っている。
足元も、数少ない灯りの下でも分かるほどピカピカの革靴だ。
どれも先生に似合っていて、不謹慎にも見とれてしまう。
「ごめんなさい、タケルくん。
結局あなたに私が守られてばかりだ。
私を守るために遠ざけてくれているんだと分かっているのに、来てしまいました」
何を謝る事があるんだろう。
俺は先生を振り回して、別れを告げたのに。
言わなかった気持ちに気づいてくれるだけで充分だった。
「どなた?」
母親と和哉が家から出てきた。
俺は、和哉は母と会わせる為に先生に住所を教えたんだと気がついた。
「説明する必要はない」
俺が冷たくいい放つと、和哉が割って入ってきた。
「俺のことは親にバラしたくせに、この人のことは 庇うんだね。
俺との事はこの人の練習台だったんだ。
このまま帰さないよ。
二人だけ幸せになるなんて俺は許さない」
和哉は目をギラギラと光らせて、声を絞り出した。
「お前は義弟だからずっと親には隠せないと思った。
関係を続けるなら最悪の状況でバレるよりは自分で話すべきだと思ったからだ」
「俺は言わないでほしかったよ!
親になんか何言ったって無駄なんだよ。
子供より自分のほうが大事なんだからさ!」
「どういうことなの!?」
母親が金切り声を上げた。
俺が家を出ると言った時と同じ、青筋を立てたひどい形相だ。
「今お付き合いしている歯科医って、まさかこの人なの?」
母親の目線が先生に向けられる。
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