となり

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母親というだけでこの人は、性懲りもなく自分の価値観を押しつけてくるんだろうか。 我こそが正義とばかりに、先生を罵るのだとしたら。 想像しただけで、胸くそ悪い。 先生に出会うまで抱いていた自分の苦悩なんて比べ物にならなかった。 「この人はもう関係ない! 言いたいことがあるなら俺に言え!」 「タケルくんが浴びる言葉は私も甘んじて受ける。 タケルくんは私の一番大切な人です。 大切な人が傷ついて平気でなんていられない」 先生は母親を悲しみに溢れた瞳で一瞥すると、静かに会釈した。 「帰りましょう。 私のそばにいてください」 「ごめん。 俺は一緒に帰っちゃいけない。 俺がそばにいて、 結局先生を傷けた」 「傷つくのは構いません」 先生は優しく笑った。 「あなたにさよならを言われるほうが何億倍も痛かった」 先生の瞳から涙が溢れ、こぼれ落ちた。 「あなたがいなければ、また私はひとりぼっちです」 「俺は、一生涯先生のそばにいていいのかな」 「タケルくんは、私を傷つけないんですよね? 守るなら、ずっとそばで守ってほしいです」 俺は先生を抱き寄せて、自分の肩に先生の顔を押しつけた。 先生は何も言わず、こくりと頷いた。 先生に促されて俺が先生の車に乗ろうとすると、和哉がぽつりと言った。 「また潰しに行くよって言ったらどうする?」 「じゃあ、尚更俺は先生から離れられないな」 俺は迷わず答えて、車のドアを閉めた。 車が走り出す。 俺は一度も後ろを振り返ることなく、真っ直ぐ前だけを見つめていた。
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