再び

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再び

「ちょっと嫌なにおいがしますよ」 先生の指がこの前削った歯にグリグリと何かを詰めていく。 「はい、終わりです。 口をゆすいでくださいね」 倒れていた治療椅子が機械音をたててゆっくりと起き上がる。 言われた通り口をゆすぐと、先生が俺の首にかかっていたエプロンを優しくはずしてくれた。 「食事は30分ほど待ってくださいね」 「わざわざ休診の日に、ありがとう」 お礼を言うと先生は嬉しそうに笑った。 「気絶したときは仮詰めしかできなかったの で気になってたんです。 治療が再開できて良かったです」 「もう昼だな。 出かけるにも中途半端だし、食事も俺がす ぐにはできないし」 「折角のお天気ですしね」 先生が顔に手を当てて悩んでいる。 どこか行きたそうにうなっているのを見ると、絶対にどこかに連れていってあげたくなる。 「う~ん………。 そうだ、バーベキューとかは? おお、と先生の瞳が輝いた。 「したことないです」 「いいね、決まり。 じゃあ、俺が持ってるバーベキューセット とってくるよ」 「わ、私は何を用意しましょう」 先生は初めてだから何をすれば分からないみたいだ。 「…一緒に取りに行く? 先生の家みたいに広くも綺麗でもないけど」 「はい!」 先生の顔がぱっと赤く華やいだ。 嬉しそうに支度をする先生を見て、俺は幸せを噛みしめていた。 何を買おうなんて盛り上がりながら、俺たちは病院を出た。 先生が戸締まりをしている間、俺は先に外へ出て待っていた。 坂の上から誰かが降りてくる気配を感じた。 俺は道の端に避けながら上を見上げた。 見覚えのある顔だった。 手入れを欠かすことのない自慢のブリーチした短髪も、自信ありげに上がった口角も昔とちっとも変わっていない。 俺の前で、その金髪の男は立ち止まった。 俺は無言でじっとその男を見ていた。 「ずっと音信不通で心配してたよ」 柔らかい口調で話しかけられても、そこから優しさは微塵も感じられない。 こいつが心配しているのは俺ではなく、己の私利私欲だけということを知っているから。 「タケルくん?」 先生の声がした。
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