夢のない世界で

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夢のない世界で

 夢の内容をはっきり覚えていたことなんてほとんどないのに、今日に限って、その様相は鮮明に頭に焼き付いていた。  夢の中の私は、ヨーロッパの鄙びた町でりんご売りをしていた。 家へ続く道の途中、りんごが入ったバスケットをなるべく揺らすまいとしながら、緩やかな坂を跳ねるように登っていた。私が通った道の後には、柔らかい土から生き生きとした若葉が芽吹いてきた。それが順につぼみを付け、花を咲かせ、私の背後はあっという間に色とりどりの花に覆われた花畑になった。 その景色がひどく美しいことは知っていたけれど、振り返りたいとは思わなかった。植物は恐ろしい勢いで成長していた。その成長っぷりをいじらしく感じるのと同時に、私はなぜか、この植物が私の退路を塞ごうとしているように思われてならなかった。しかし、彼らを疑うことはできない。 彼らの中に、ほんの少しの悪意でも見出したが最後、それがいかに些細なものであっても、私はこの植物に飲み込まれて、道に溜まった雨水のように誰にも気づかれないまま消しさられてしまう。そんな気がしてならなかった。     
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