秘密

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非社交的なイチカは挨拶さえすれば帰ってよしと思っているが、社交的な輝真は、舞台が終わると自ら打ち上げなどを提案している。 ホテルへ行くにしても、週にに1回あるかないかだ。 輝真への愛が冷めた訳では無いが、イチカの躯は男のぬくもりを求めた。イチカ達の劇団は、時々地方にも行くが、ほとんどが大阪か東京のどちらかだ。 イチカは征嗣のお言葉に甘え、少し高いレストランに入った。席に座ると、テーブル番号を探す。飲食店のほとんどに存在するテーブル番号は、呼び鈴やテーブルの側面に書いてある。イチカは側面にテーブル番号を見つけると、征嗣に店名とテーブル番号、席の位置をLINEで知らせた。 何度も会っているのだからここまで細かく書かなくても、とイチカ自身も思うが、数字があると征嗣は安心するらしい。 イチカは値段を気にせずに自分が食べたいものを選んで注文すると、LINEを開いた。征嗣をはじめ、3人の男からチャットが来ている。 “そのレストラン、実は前から気になっていたんです。あと10分もすれば着くと思うので、どうかもう少しだけ辛抱してください” バカ丁寧な文面は、現在こちらに向かってる征嗣からのもの。 “新宿駅近くの飲み屋で打ち上げしてるから、気が向いたら来いよ” 軽い文面と共に居酒屋でワイワイしている写真を送ってきたのは、恋人の輝真。 “イチカちゃん、次にこっち来るのいつやろ? はよ会いたいわぁ” 関西弁のLINEは大阪での浮気相手、薫。 彼はイチカより年下で低身長。小柄なイチカと大して変わらないため、彼女がヒールを履くと悲惨な身長差が生じる。童顔の彼は人形技師の卵で、イチカにそっくりな人形を作ってプレゼントしたこともある。 薫はとても人懐こく、甘え上手だ。 征嗣は忠犬、薫は甘えたな猫というイメージが、イチカの中にある。全く別のタイプだから、イチカは飽きずにふたりを切り捨てないでいるのだろう。
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