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イチカは3人に返信すると、台本を広げて読み始めた。台本の内容は今日演じたもので、暗記はとっくにしてあるものだ。それでもイチカは、待ち時間は台本を繰り返して読む。
台本を半分も読むと、聞きなれた足音が近づいてきた。顔を上げると、征嗣がこちらに向かって歩いてきている。
「おまたせ、イチカさん」
征嗣はイチカの前に座ると、急いできたのが、ふぅっと小さく息を吐く。
「そんなに待ってないよ。はい」
イチカはにっこり笑って、征嗣にメニュー表を差し出す。
「ありがとうございます」
征嗣は小さく微笑んでメニューを受け取ると、綺麗な所作でページをめくる。
お嬢様を演じることが多いイチカは、彼の品性のある所作を観察する。
「お待たせいたしました」
ウェイターが、イチカの料理を運んできてくれる。
彼がイチカの前に料理を並べ終えると、征嗣はウェイターに声をかける。
「すいません、注文よろしいでしょうか?」
「はい、お伺いさせていただきます」
ウェイターは注文表を手に取ると、ペンを構えた。
征嗣は丁寧にメニュー表を指さしながら、注文を伝える。時折ウェイターと目を合わせるのが、イチカには紳士的に見えた。
「どうぞ、先に食べてください」
征嗣を気遣って料理に手を出すのに迷っていたイチカだが、征嗣は先に食べるように促してくれる。
「じゃ、遠慮なく」
イチカは料理一口サイズの半分ほどにカットして、口に運ぶ。
「イチカさんは、相変わらず綺麗な食べ方をしますね」
「お嬢様みたいに見えてたらいいんだけれど」
「まるでお姫様ですよ」
征嗣はそう言って微笑む。
キザで紳士的な彼の発言や仕草に、イチカは心を踊らせる。それは言動自体にときめいているわけではなく、この紳士的な優男がベッドの上での豹変ぶりを知っているからだ。
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