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征嗣が出ていくと、イチカは起き上がってシャワーを浴びる。
浴室から出ると、テーブルにメモ紙と五千円札が置いてあるのに気づく。
“朝食はこれで食べてください”
メモ紙には繊細そうな文字が並んでいる。
「ホント、いい人すぎるわ……」
イチカは彼の至れり尽くせりな心遣いに恐縮しつつ、五千円札を財布の中にしまった。
数週間後、イチカ達は大阪へ公演をしに行った。
初日から満員御礼だ。
イチカは舞台が終わり挨拶をして、イマドキメッキを施すと、さっさと劇場から離れていった。
彼女が向かったのは、劇場から1駅離れたところにあるジャンクフード店。
フィレオフィッシュとカフェラテを注文する。レジの横で受け取ると、一足先に来てハンバーガーにかじりついている青年と同じ席に座る。
「イチカちゃん久しぶりやなぁ、元気にしとった?」
薫は人懐っこい笑顔で聞く。
「えぇ、薫くんは?」
「俺は相変わらずや。せや、ニカちゃんはどうしとる?」
薫は癖っ毛の跳ねた髪を撫でながら訊ねる。
ニカというのは、人形技師の彼がプレゼントしたイチカと瓜二つの人形だ。
「お行儀よく、私の部屋にいるわ。いつも帰りを待っていてくれてるの」
「そっかぁ、よかったわ」
薫は嬉しそうに笑う。彼は人形に魂が宿っていると信じてやまない。
ふたりは互いに近況報告をしながらハンバーガーを食べると、ホテル街へ繰り出した。
征嗣の時と同様、イチカはひとりで先に浴室に入ると、イマドキメッキを流し落とした。
ベッドに戻ると、薫はニコニコしながらイチカを見つめる。
「やっぱりイチカちゃんは、化粧せんほうがべっぴんさんやわぁ」
「あら、ありがとう」
イチカは微笑を浮かべてベッドに腰掛ける。
「俺も汗流してこよ。すぐ戻るさかい、待っとってな」
薫はイチカの頬にキスをすると、駆け足で浴室へ入っていった。
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