5人が本棚に入れています
本棚に追加
イチカはベッドに横になって、薫を待つ。
5分もしないうちに、彼は慌ただしく戻ってくる。そして……。
「あぁっ!?」
髪を拭きながら歩いていたせいで肘が薫のカバンにぶつかり、中身が床に散らばった。たくさんの駄菓子と財布、手帳などが入っているのを知り、イチカは小さく笑った。
「大丈夫? すごい駄菓子の量ね」
イチカはクスクス笑いながら、駄菓子を拾うのを手伝う。
「手伝ってくれるん? ありがとさん。俺、口寂しくなったら甘いモン食べたくなるんよ」
薫は屈託のない笑顔で言いながら、手帳を拾い上げた。1枚の写真がイチカの前に落ちる。
イチカはその写真を見て、目を丸くした。
「ねぇ、この写真……」
「あー、それなぁ、兄ちゃんと撮ったんよ。俺が高校卒業した時の写真やな。兄ちゃんふだんは東京におるんやけど、こういう行事ごとはわざわざ大阪に来てくれるんよ」
薫は嬉しそうに兄の話をする。
「そうなんだ……」
イチカは再び、写真に視線を落とした。桜の木の下で、今より少し幼い薫と征嗣が、にっこり笑ってこちらを見ている。
「なんや、そんなに写真見て……。兄ちゃんに惚れたんか……?」
薫は寂しそうにイチカの袖を引っ張る。
「違うよ、似てない兄弟だなって」
「はははっ、よう言われるわ。兄ちゃんのが背ぇ高いし、かっこえぇもんな」
薫はそう言って笑うが、イチカにはそれが自傷行為に見えた。
「薫くんも素敵よ。優しくて可愛くて」
イチカの言葉に薫は一瞬キョトンとするも、声に出して笑い始めた。
「あははははっ、可愛いは余計やわ。でも、ありがとうな」
そう言って再び、屈託のない笑顔を見せた。
薫の駄菓子を全部しまい終えると、ふたりはベッドの上に移動する。
「イチカちゃん……好き、愛してんで……」
イチカの躯を貪りながら、薫は愛を囁く。
最初のコメントを投稿しよう!