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理沙はあまりにも真剣にニルレムがそういうので、演技派の変態であるとは考えなかった。しかし、もしかすると、ただ手を握らせたいだけなのかとも考えた。しかし、そう考えているうちに、店のまどから、三人の普通のオジサンが店の方に歩いてくるのが見えたのだった。
「あなた、本当なの。いや、いいわ、手を貸して。握ってあげる。」
「あはは。」
ニルレムはおかしかった。命を救ってあげようとしている女の子に手を握ってあげると言われた。まあ、急なことだから仕方がないと思った。そして、理沙の手はとても華奢で綺麗であり、ぬくもりも心地よかった。
「声はださないんだよ。」
普通だ。よくいるサラリーマン風のオジサン三人が店に入って来た。ちょっと鍛えてる風の胸襟以外は、そのワイシャツ越しには分からない。紺のズボン、黒のズボン、茶色のズボン、どれも量販店でうっている吊るしのスラックス風で、高くはなさそうだ。靴もありふれた黒のビジネスシューズだ。三人とも腰のベルト、右側に大きな携帯ケースみたいなものを提げている。怪しくは見えないが、そこにナイフが入っていてもおかしくは見えないだろう。理沙は自分がオジサン達に見えないとはまったく思っていなかったが、目の前まできた三人がニルレムに話しかけるのを聞いて、彼が本当に魔術師であると確信したのだった。
「あのー。学生さんかな。凄い量を食べるんだね。」
「あー、いや、もうすぐゼミの先輩が三人くるので席とって、注文しておけって言われたんですよね。」
三人の内、黒ズボンが鼻をひくつかせる。
「ちょっと前まで美人の彼女さんがいたかい?」
「え、いや、こういってはなんですが、ゼミで一番の巨漢の同期の女子がいましたけど、今、百円ショップにいってますけど。」
茶色ズボンが話し出す。
「オーラってわかるか。キルリアン写真みたいに、人間の周りに光が出るやつ。」
「あー、そういうの、大好きですよ。見えたら占い師になれそうですよね。」
明るく笑ったニルレムだったが、オーラを隠す魔術まではほどこしていなかった。つづけて紺色ズボンが話す。
「あんた、命はいらない系の若者なのか。日本でそれだけの事が出来るなんて、惜しい人材だけどな。」
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