ナギと博士と缶詰工場

1/61
89人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ

ナギと博士と缶詰工場

 桐沢の森という地名から澄みきった空気の美しい森を想像していたが、実際に来てみると、しなびた枝が魔女の白髪のようで気味悪い、加えて、臭い、痒い、の3Kの森だった。  すれ違ったポーターの話では、森に生息するヒドラグマが初秋のこの時期に大量の糞をするから森全体が臭いのだそうだ。痒いのはその糞を栄養源にして大量発生したモリダニのせいらしい。  山千代ナギは心の中で叫んだ。  ―あちきは何故にこのような魔境に来てしまったのじゃあぁー  最先端技術というアルバイト募集のキャッチコピーに魅かれて応募したのだが、幾ら缶詰工場とは言っても、まさかこれほどの僻地に在るとは想像もしなかった。  今になって思えば、「三食昼寝付き住み込み可」というレトロな福利厚生に漂う妖気を感じ取るべきだったし「旧遊歩道跡で下車」という突っ込みどころ満載のアクセスにも疑問を抱くべきだった。  桐沢高原鉄道のトロッコ電車を見たときが、引き返す判断のタイミングだったようにも思うが、なけなしの千円札一枚を崩して既に切符を購入していたので、とりあえず前に進むしかなかった。       
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!