250人が本棚に入れています
本棚に追加
/499ページ
言いかけて、神長は黙りこんだ。唇に人差し指を当て、ドアの方に向く。彼は音を立てないようにそっと立ち上がり、ドアに耳をつけた。それから「いる」と唇の動きで有紗に伝えてきた。
有紗は起き上がって姿勢を正した。アルコールが入るとトイレが近くなるからドアの向こうにいるのは父かもしれない。ずっと耳をそばだてていたのだろうか。それとも、今たまたま通りすがっただけだろうか。
神長はまた布団に戻ってきて、有紗に耳打ちした。
「そこに誰かいますね。ドア越しにどの程度話が聞こえるものなのかわからないけど、とりあえず今有紗がここにきていることはバレてるな。まあ別にやましいことはしてないし問題ないですけれど」
「やましいことあります、わたし廉さんだけ気持ちよくなってもらうって言っちゃった」
「とりあえずそれが聞こえていたかどうか確認してみましょうか」
どうやって? そう思っていると、有紗は椅子に座るように指示された。神長は布団の上に座ったまま、ドアに向き直る。それから、さっきまで話していた声の大きさで外に向かって呼びかけた。
最初のコメントを投稿しよう!