【act1】 はじめての

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2 「今日は遠くからありがとうございました。仕事が始まってからでも、何か違うなって思うところや不安なことがあったら、いつでも連絡くださいね」  有紗はビルのエントランスで、打ち解けた笑顔を見せる女性社員に、軽く手を振った。ピンと伸びたトレンチコートの背中が、ビルの谷間の人混みにかき消されるまで見送って、ようやく詰めていた息を吐き出した。  有紗は都内中心部にある教育総合企業、ブライトエデュケーションの人事部に所属している。入社二年目の主な仕事は、人を雇用することで発生する書類もろもろの処理や、パートタイマーを含めた入社希望者への連絡だ。  そんな中、世間一般の想像するような花形部署のイメージにいちばん近い仕事が、今しがた終わったばかりの、中途入社をした社員への初期対応だ。  ヴィジョンを共有することだけが目的ではない。会話を重ねながら、レジュメだけでは測りきれないその人自身を理解して、先回りで配属予定部署に情報を渡す。 業務スタート時点からコミュニケーションを取りやすくするための下地作りは、一日目から気持ちよく働いてもらうための工夫だ。
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