255人が本棚に入れています
本棚に追加
ほんとうは今すぐにでも話をしたいが、昨日の出来事は一言では話せそうにない。いろいろと複雑だ。
ぱちんと鳴って、沸騰が止んだ。有紗はスマートフォンをポケットに戻した。
ティーサーバーに湯を注ぎ、席に戻ろうとしたときに、給湯室の扉が開いた。
「ああ、すごくいい香りがするね」
短い髪にメタルフレームの眼鏡が良く似合う、知的な雰囲気の美人は、人事部長の宇美晶だ。冷蔵庫を開けて常備している栄養ドリンクを一本取って、一気に呷った。それから紅茶の缶を手に取って、まじまじと見つめる。
「またずいぶん高いの飲んでるじゃない。ひとり暮らしのわりに優雅な生活してるよね」感心したように言ったあと「飲食に関しては」と付け加えて、宇美は歯を見せた。
「昨日新宿のデパートめぐりをしていたので、お買い物のついでに買ったんです。いつもこんなにいい紅茶ばっかり飲んでるわけじゃないですよ」
最初のコメントを投稿しよう!