255人が本棚に入れています
本棚に追加
(大丈夫、森住さんは忙しいから、わたしを見かけても話しかけてきたりはしないはず)
到着を告げる音が鳴り、願いむなしくエレベーターの扉が開く。有紗はそろりと総務部に降り立った。
社内随一の風通しの良さを誇る総務部は、壁という壁を取り払った、巨大なワンフロアになっている。観葉植物をパーテーション代わりに置いた緑あふれるオフィスは、都会の中のオアシスといったイメージだ。
フロアの隅に位置しているシステム課に目を向けずに、有紗は腰をかがめて郵便物の置かれているカウンターを目指した。
「あ、綿貫さーん! ごめんね、死ぬほど届いてるけどまだ何にも触ってない。そこに置いただけなんだ」
そんなときに限って、大声で名前を呼ばれ、有紗は声の主を探して顧客管理課に目を向ける。目鼻立ちのはっきりした、ひときわ派手なルックスの女性社員がわざわざ席を立って、手を振っている。あっという間に注目の的だ。
最初のコメントを投稿しよう!