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どうして今日に限って大声で。憂鬱な心の声を飲み込んで、有紗は笑顔で会釈をする。もう、誰にも意識を向けて欲しくない。そう思う気持ちのせいなのか、ますます猫背がひどくなる。
作業は山のように送られてくる本社宛のレターパックをペーパーナイフで裂くところから始まる。そのあとは、部ごとにまとめられた送付用封筒を仕分けしながら、人事部宛のものをピックアップする。
黙々と封筒開けをしていると、システム課の方から近づいてくる人影が視界の端に映った。千晃かもしれない。
昨日はありがとうございました、それを言えば休みの日に会ったことがバレてしまい、他の社員たちから好奇の目が向けられるかもしれない。手元に目線を落としたまま悩んでいると、その人は有紗のすぐ隣に並んだ。
「手伝いましょうか」
「神長さん」
声の方に振り向いて、それから有紗はあわてて左手で目を覆った。まともに目を合わせられないまま郵便物に視線を戻し、「ありがとうございます」と、ゆっくりと手を下ろす。
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