【act1】 はじめての

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「こちらの方気になります? ちょっと試着してみませんか」  目線で察知したのか、店員がAラインワンピースをハンガーから外して、有紗の方に差し出してきた。  それは買わないと心に決めながら、有紗が何も言えずにいると、 「電話中に消えたと思ったら、まさかの試着。そりゃ探しても見つからないわけだ」  試着室前でやりとりをする二人のあいだに、無愛想な男の声が割り込んできた。すらりとした長身。ライダースジャケットに、目尻がつり上がった狐顔。赤みがかったくせのある髪のせいもあるのか、不興気な表情がやけに威圧的だ。  店員の女性は恐れをなしたのか、彼に向かってはじかれたように頭を下げる。それから一歩、二歩と微笑みを貼り付けたまま退いた。  森住千晃。一見すると繁華街をうろつく『やばいお兄さん』かもしれないが、その人柄が見た目とまったく違うことを、有紗はよく知っている。
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