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もちろん、売る側の事情は理解している。だからこそ断りづらくなってしまうのだが「いりません」とはっきり言うのも、勇気が必要なのだ。
「洋服は欲しいんだ?」
きつく言い過ぎてしまったと思ったのか、千晃の声が優しくなった。
「何かいいものがあればなっていうかんじですけれど。あ、ぜんぜん心暖ちゃんの服メインで見てもらっていいですからね」
有紗はこれ以上迷惑をかけまいとして、明るい声を出す。今日は三歳になる千晃の愛娘、心暖のためのコート探しに付き合って、新宿にあるデパートに買い物をしにきている。
目的地の子供服売り場は、棟をまたぐ連絡通路を越えたすぐそこだ。まずは自分の買い物よりもそちらが優先だ。
「有紗ちゃんにも一着、なにか買ってあげようか」
「いえいえ、大丈夫です。その分、心暖ちゃんにもう一着買ってあげてください」
「何だよ。こっちの懐具合の心配?」
千晃が眉間にしわを寄せる。
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