【act1】 はじめての

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 もちろん、売る側の事情は理解している。だからこそ断りづらくなってしまうのだが「いりません」とはっきり言うのも、勇気が必要なのだ。 「洋服は欲しいんだ?」  きつく言い過ぎてしまったと思ったのか、千晃の声が優しくなった。 「何かいいものがあればなっていうかんじですけれど。あ、ぜんぜん心暖ちゃんの服メインで見てもらっていいですからね」  有紗はこれ以上迷惑をかけまいとして、明るい声を出す。今日は三歳になる千晃の愛娘、心暖のためのコート探しに付き合って、新宿にあるデパートに買い物をしにきている。 目的地の子供服売り場は、棟をまたぐ連絡通路を越えたすぐそこだ。まずは自分の買い物よりもそちらが優先だ。 「有紗ちゃんにも一着、なにか買ってあげようか」 「いえいえ、大丈夫です。その分、心暖ちゃんにもう一着買ってあげてください」 「何だよ。こっちの懐具合の心配?」  千晃が眉間にしわを寄せる。
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