【act1】 はじめての

8/34
前へ
/499ページ
次へ
「あれ、ちょっと着てみない?」  有紗は即座に、首を横に振った。 「わたしみたいな人がああいう服を着ると、ぜったいやばいです。周りから白い目で見られます絶対に」 「だったら、俺と二人の時だけ着てればいいんじゃない」 「ええ?」  それは一体、どういうニーズの服なのだろう。 「外でこういう服着てるときにさ、彼女が自分以外の男からそういう目で見られるのは、気分悪いしな。……って、おい心暖」  通路の先に見える巨大ペンギンのぬいぐるみにつられたのか、心暖が「パパ、あっち」と大人顔負けの力で千晃を引きずった。 (彼女……)  有紗は仲の良さそうな親子の姿を見ながら、呆然と言葉を反芻する。やはりあれは、恋人という意味の『彼女』だったのだろうか。  現実の世界では、漫画やドラマとは違って「付き合ってくれませんか?」というわかりやすい告白にオーケーすることから、男女の交際が始まるとはかぎらない。それくらいは、なんとなく知っている。
/499ページ

最初のコメントを投稿しよう!

255人が本棚に入れています
本棚に追加