【act5】ひとつになれば

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【act5】ひとつになれば

1  誰かの手が脚に触れて、有紗ははっと我に返った。頭の中を完全にすり抜けてしまっていた、子ども用防災アニメのセリフが耳に戻ってきて、有紗は口元に笑みを取り繕った。隣の席に千晃が座っている。  消防署に併設された駅直結の博物館は、子供向けの雨の日レジャーとして人気があるようで、時間ごとに内容の変わる映像室は満席だ。  心暖は有紗のひとつ前の席で、食い入るようにスクリーンを見つめている。いつもは千晃にべったりだが、親と離れて座る少し年上の女の子を見て、自立心を刺激されたのかもしれない。  子どもはこうやって少しずつ親離れをして、大人になっていくのだ。その姿を誰よりも間近に見て刺激を受けるのが親なのだろう。 この映像室の中にいる、自分以外のすべての大人が当たり前のようにそんな気持ちを持っているのかと思うと、有紗は場違いな気がしてならなかった。 「どうした、いつにもましてぼんやりしてるけど」千晃が耳打ちしてきた。
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