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【最終話】そこに
レイコはこの日を境に
消えた。
掃除婦の人もマキさんから突如、別の人に変わった。
でも、俺は驚かなかった。
トラぶった営業先とは和解し、俺を通報した住民の誤解は解け、身体の不調もなくなり、車の修理代も安く上がり、無くしていたデータのバックアップも見つかった。
それも当然のことのように思えた。
俺が、こんな非現実的な出来事を驚きもせず受け入れた理由。
実はこんな文章がマキさんの手紙の文面にあったから。
『嬉しかった。
いつも けんたさんのお母さん、
鬼の面をかぶっておどけていて、私も楽しかった。』って。
俺の家は母子家庭。
節分の豆まきで鬼の役を演じるのは 父親 が多いのだろうが、うちではいつも母親がやっていた。
それを知っているかのような一文に、俺は「マキ」が何者かを確信した気がした。
そして
俺は親元を離れ、社会に出て、いつしか
そんな大切な
家族のつながりを意識するような古来の風習なんて忘れて
母親への感謝の気持ちだって
忘れていて・・。
レイコ という「鬼」の化身を 俺は家に招き入れてしまったということ。
そして
マキ という「福」に守られた、、、
そうとしか思えなかった。
あれから一年後の2月3日。
俺は節分の豆まきを済ませて、立春の祝いをきちんと行った。
なんとなく、母親にも電話をかけた。
元気か、って。季節の変わり目、体調崩してないかと。
きっと節分とかそういうのは、人間が季節の変わり目に体調崩したり、気持ちが浮ついて事故ったり、そんな事が多いのをみた太古の人の知恵で、落ち着こう、健康になろうって考えた風習だったのかな。
文明が進んで、俺たちはそんな古の教えや
神様や幽霊や妖なんかが見えなくなってしまったのかもしれない。
なんて。
そんなことを思いながら、玄関で豆をまき終わって、部屋に戻ると
「ありがとう。けんたさん。」
「・・いらっしゃい。
だいたい一年ぶり・・・かな?」
「驚かないんですね。
笑ってくれるのですね。」
そこに
マキ がいた。
【レイコとマキ:完】
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