塩田直樹の決断

　2月14日の呼び出しに、ワクワクしない男はいない。
　それがたとえ付き合っている彼女の呼び出しだとしても。

〈直樹、明後日予定ある？〉
〈ちょっとだけ時間作れる？〉

　昼休みのチャイムが鳴ったと同時に、会社の別部署で働く麻里香からそんなメッセージが届いた。
　周りの社員は昼メシを食う為に移動を始めている。俺はワクワクしてる事をうんと隠して、〈別に予定はまだ未定だけど〉〈作れるっちゃあ、作れる〉と意味不明な返事をした。
　するとすぐに既読マークが付き、送信されてきたのは〈また連絡します〉の札を持つネコのイラスト。

　誰にも見られていないのに、俺は務めて冷静を装いながらも、足元はツーステップを踏んでいた。

　コンビニに弁当を買いに行くと、店内は赤とピンクのハートのポップで、各社チョコレートを絶賛アピールしている。これじゃあバレンタインを意識しない方が難しいくらいだ。

　バレンタインの棚をチラ見していると、同じ部署の佐藤さんに見つかった。その手にはサラダ巻きと野菜ジュース。

　「もうすぐバレンタインですね」そう言って佐藤さんは朗らかに笑う。「今年は楽で良いわぁ。塩田さん達男性陣には寂しいでしょうけど」