実家暮らしで通信販売を利用するということ

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実家暮らしで通信販売を利用するということ

「タケシ、ごめん。母ちゃんね、お前に届いてた荷物を勝手に開けちゃった」  タケシは帰宅するなり、荷物が自分宛に届いていたこととそれを開封した報告を同時に受けた。落ち着き払って、タケシは自分の部屋でジャケットを脱ぎ、洗面台で手洗いとうがいを済ませ、居間に入った。今日は、待ちに待ったあれが届く日だ。 「母ちゃん、ただいま」  おかえりと答える母の、済まなそうな表情を確認した。普段は、人の荷物を勝手に開ける様な母でない。これまでにだって通信販売は利用しているし、父ちゃんだって月に一つ二つは通販で買い物をしている。開封の儀って訳ではないが、自らの手で開く楽しみは俺にだってある。だが今回ばかりは、少し辟易していた。父ちゃんも俺も、迂闊に変なモノは買えないな、なんてことも同時に思った。 「なんだよもう、勘弁してくれよなぁ。で、なんで勝手に開けたんだよ」 「いやね、チョコかと思ってね」  チョ、チョコ? 予想だにしない回答が返ってきた。タケシは、主に衣類や本しか通販しないからだ。これまでに、贈り物といえど食料品を取り寄せたことはなかった。 「でも、中身はTシャツだった」 「うん、そうだろう。そもそも俺、食い物は通販しないでしょ?」 「そう言われてみれば、そうねえ……」  強く責めるつもりではないが、母は腑甲斐なさを悔いているようだ。 「それで、なぜチョコかと思ったんだい?」  そう、そこだ。なぜ中身を検めずに、チョコレートだろうと思ったのか、そこが知りたい。 「それがね、タケシ。運送伝票の備考欄に『ROYCE』ナントカって書いてあったから、母ちゃん北海道銘菓かと思ったわけ」  ……あぁ、そうか。そういうことか。 「母ちゃん。それは、格闘家の名前だよ!」 「なんだい、そうだったのかい」  親子して、チョコレートほどビターな苦笑いを交わした。 ――俺は早速、“Royce Gracie, Living Legend”(生ける伝説 ホイス・グレイシー)とプリントされたTシャツに袖を通した。  そしてお茶目な母ちゃんのため、ネットで北海道銘菓の生チョコレートをチルド宅配便を使って注文した。  誕生日がもうすぐなので、宛名は母ちゃんの名前にしておこう。
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