1・プロローグ

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1・プロローグ

 その世界に名は無かった。  ただ、人々は大気に通じ大地を感じ、火や水と語らい風に揺らぎ、緑に生かされていた。  些細ないざこざは多少あるものの、概ね平和な彼らの生活の源となっているものは魔法。生まれた瞬間から傍らにあるそれは快適に、強靭に生きていくために日々磨かれる。そうして様々なパワーバランスが保たれていた。  ここ、 ヴァルト家も例外ではなく―― 「ルーヴーー!! ルーヴはどこだーーーーっ!!!」  砂漠の大地のオアシス付近。石造りの家が集まる村に怒号が響き渡る。  昼食が終わったばかりの気だるげな時間帯、浮遊魔法で道ゆく者達は『またか』と慣れきった顔を見合わせた。日常茶飯事であった。  そんな通行人に割って入るように、一際大きな家から飛び出してきた青年は怒号の主か。20代前半と思われる彼は、色黒の肩をいからせ赤髪を振り乱し興奮に息を荒げている。  その手にはカエルとネコを足して2で割ったような動物が描かれた紙が握られており、それを目撃した通行人は引きつった愛想笑いを浮かべた。「大変だね、リー」と青年を労う。  しかし頭に血が上っている青年リーには聞こえていないようで、色素の濃い目を左右に飛ばすと左へとすっ飛んで行った。  だが残念ながら――まことに残念ながら、彼の探している人物は逆方向に居たのだ。
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