21人が本棚に入れています
本棚に追加
村の一番隅にある塔。年期が入っており相当古びているが、屋上の見張り台から地上までを結ぶ外梯子は比較的新しい。その外梯子を、一人の少年がせっせと上っている。
年の頃は14程である彼の名は、ルーヴ・ヴァルト。色白で小柄な細い体、緑の垂れがちな目。中性的な整った顔立ちで、淡い水色のショートヘアが黒いマントと共に風に揺れている。
「よいしょ、っと……あれ、カペル姉? なんでここに?」
外梯子を上りきり、屋上の縁に手を引っ掛けたルーヴは目を瞬かせる。見張り台に備え付けられている長椅子に、脚を組んで座っている金髪の少女が居たのだ。長いポニーテールを靡かせ非常に可愛らしい容貌だが、今は厳しくその顔をしかめている。
「『なんでここに』じゃないわよ。理由は分かってんでしょー? またテストに落書きなんかして……リー兄さんすっごい怒ってるよ」
推定年齢16歳の彼女はカペル・ヴァルト。ルーヴの姉だ。「まったく」と呆れたように首を傾ける。
しかし屋上に降り立ったルーヴは悪びれる様子もなく汚れた手を叩き、「うん……今回の落書きは上手く描けた」と自画自賛した。ガクッとカペルは項垂れる。
「……なに描いたのよ」
「ピリュ」
「よりにもよってリー兄さんの大嫌いなやつ!」
カペルはガバッと顔を上げると眉尻を鋭くし「あのねぇルーヴ」と本格的な説教モードに入った。忙しないなぁ、とルーヴは他人事のように思う。
最初のコメントを投稿しよう!