1・プロローグ

4/8
前へ
/39ページ
次へ
 空がオレンジ色に変わり、村中に夕刻の鐘が鳴り響く。一応門限があるルーヴも帰宅するため重い腰を上げた。でないと今度は門限破りでリーに叱られるだろう。  外梯子で塔を下りた彼は、方々に落としてきた自分の持ち物を回収――こうすると気配を分散させてリーを惑わせられる――する。そして埃っぽい集落をとぼとぼ歩いて帰路に着いた。 「お、ルーヴ! 今帰りか?」 「リー先生にちゃんと謝るんだよ」  浮遊魔法で通りすぎていく人達が口々にルーヴに声を掛ける。ひとり徒歩で行く少年は目立つ。ルーヴは頷くに留めた。 「ルーヴ! おいルーヴ!」  そこに声を潜めて呼び掛けてくる声。ルーヴが見ると、二人の少年が物陰から手招きをしていた。  一人はアウィス・ウイレワール。長い茶髪を後ろで束ね三つ編みにしている。クールで頭がキレる知恵者だ。  もう一人のツンツン立たせた緑髪がムッカ・タウロス。そばかす顔のお調子者。  二人ともルーヴと同年の友人である。「なに?」とルーヴが駆け寄るとムッカは「シーッ」と己の口に人さし指を当てた。三人は揃って物陰の奥に引っ込むと輪になって座る。  怪訝な顔のルーヴに「驚けよルーヴ」とムッカは含み笑いをすると、マントの下から手を差し出した。その掌の上には銀色の鍵が乗っている。 「『例の』鍵だぜ!」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加