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「まあまあまあまあナハシュ先生、そのへんで。空も暗くなってきてますし」
緊迫した空気の中、場違いなほど穏やかな声が割り込む。「マル先生!」と生徒たちはあからさまに笑顔になった。『マル先生』と呼ばれた人物はナハシュとアウィスの間にさりげなく立つ。
年の頃は27、8歳。紫色の腰まである長髪に右目の下の泣き黒子。女性かと見紛う美しい容姿だが、れっきとした男性である。
彼の名はマル・クーニュ。ナハシュやリーと同じく学校の教師である。優しく教え方も丁寧で必然的に生徒からの人気も高い。
「マル……! 貴様が甘やかすからコイツらがつけあがるんだ。リーを見てみろ、自惚れた弟の反抗心のせいで苦労している」
ナハシュがルーヴを指差す。ルーヴは何の反応も示さなかったが、友人たちは眉間に険しく皺を刻んだ。マルはそれを認めると「まあまあ」と柔らかく笑む。
「自惚れも反抗心も立派な大人になるために必要なものですよ。御自分の時を思い出されたら如何です?」
切り返されたナハシュはマルを鋭く睨み付けた。睨まれていないはずのムッカがルーヴの隣で縮み上がる。
暫くナハシュはそうしていたが、やがて「くだらんな」と吐き捨てると踵を返した。依然にこやかなマルに埒が明かないと悟ったらしい。
ナハシュの姿が完全に見えなくなってから「ビビったぁ~」と地面にへたりこむムッカ、そして礼を言うルーヴとアウィスにマルは向き直る。「君たちは良い友人関係を築いているね」と誉めると少年たちは照れたようだった。ふふっとマルは微笑む。
「さぁ皆、内緒話はここまでにしてそろそろ家に帰ろうか」
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