富士の樹海は不自由かい?

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この回とまったく関係ありませんが、うちの猫は暖房器具として重宝しています(作者) ―――――――――――――――――――――――――――――――― 「現世をさまよいし哀れな霊魂、亡者たちよ。定められし冥府へと導かん。プルート!」  凛とした詠唱が、人気のないはずの森に響き渡った。女の声だ。  周囲の地面がほの暗く輝く。困惑する俺をよそに、ゾンビたちは醜い顔をよりゆがませ、奇怪なうめき声をあげた。  死者たちの体が見る間に崩れる。圧巻だった。何十ものモンスターが、次々と肉体を失い、滅んでいくさまは。  暗い光が収まったときには、すべてのゾンビが跡形もなく消滅していた。奴らの出てきた無数の穴だけが残った。  俺に近づくなにものかがあった。身構えかけて、その必要はないとすぐに気づいた。モンスターではなく人間――四人の男女だ。俺と同じか少し上ぐらいの年のようだ。さっきのおっさんたちのように冒険者ふうのいでたちだった。違うのは、ずっと上等で頑丈そうな装備品という点だ。  四人は俺に駆け寄った。 「大丈夫?」さっきの声の主と思われる女の人が、俺に尋ねた。「大きなけがはないみたいね。あれを片づけるからここにいて」  俺がろくに受け答えもできないでいるのも構わず、その人は俺の後方のドラゴンを見やった。ほかの三人とともに再び走りだす。女の人の背中を目で追ってステータスを確認した。 【ビショップ/レベル:六十】  ほかの人たちも上級っぽいクラスで、レベルも六十前後だった。俺やおっさんたちとは比較にならない強さだ。その奮戦ぶりはレベルに裏打ちされた壮観なものだった。  ドラゴンの吐き出す火炎のブレスや木をもなぎ倒しそうな腕と爪をものともせず、遠目にもわかるどこぞの名剣で硬い鱗を斬り裂き、轟く雷撃を落とす。激しい戦いの末に、崩折れるドラゴンの巨体。  すげえ。これだよ、これ。こういうやつだよ。俺の求めていた立ち回りを、その人たちが全部、代わりに演じてくれた。  俺は痛みも忘れてその人たちの戦いっぷりに見入った。
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