完璧超人のパーティー

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空飛ぶ空。あ、俺の名前、日生 (ひなせ そら)な。名前だけでも覚えて帰ってくださいねー。ショートコント『異世界転生』やった異世界だチートし ――――――――――――――――――――――――――――――――  俺は、RGBで言えば、255、0、0ぐらいに真っ赤な顔で事情を説明した。ゴブリンに襲われて必死だったあまり、不肖の息子をインし忘れていた。 「えっ、じゃあ、あれはあなたの趣味じゃなかったの?」  ねえよっ! 露出狂かよ! てか、まっ先に教えてくれよっ、なにちょっと普通に会話してんだよっ、ち○こまる出しの奴と。おかしいだろっ。 「まあ、趣味は人それぞれだからとやかく言わないが、人前ではひかえたほうがいい」  だから違うつってんだろ!!  くそっ、見られたうえに、粗末とかかわいらしいボウヤとかさんざんな言われようだ。  下半身をぶらぶらさせてモンスターと戦った勇者なんて俺ぐらいだわ。戦ったっつーか逃げまわっただけだし。 「いずれにせよ、こんな道から外れた場所じゃ行き倒れになる。近くの街まで送ろう」  三人目の男の人が魔法の詠唱を始めた。さっき犬に食われたあのハゲ頭のおっさん(なんてあだ名だったっけ)と違って、その人は長々と唱えなかった。 「天を渡る月の船よ、我らをいざなえ、飛翔させよ、流れる星のごとく。ルーナ!」  瞬間、テーマパークにある逆バンジー的なアトラクション、あれを思い出した。俺たちはいきなり、馬鹿みたいな速さで飛び上がった。  枝にぶつかる、と俺はとっさに顔をかばったが、枝葉は幻のごとくすり抜けていった。瞬く間に森を飛び出す。 「おわっ! すっご……」  思わず感嘆の声が漏れた。  空を飛ぶ夢なんて初めて見た。急速に上昇するその眼下には緑一色の世界が広がる。辺り一帯は、俺が最初にいたと思われる峡谷が見える以外、深い緑に覆われていた。  富士の樹海かよ。絶対これ、迷いの森とかの名前がついてるやつだろ。こんな深い森から徒歩で抜け出すなんてちょっと無理だった。わけわかんない高レベルのモンスターまでいるし。  飛ぶスピードは相当なものだった。すぐに森から平原へと変わり、たまに立っている木や小さな池、白っぽい岩、鳥の群れが、百キロだか二百キロだかの凄まじい速度で後方に流れていく。  風圧は、あのハゲのおっさんのヅラなんか秒速で吹っ飛ぶほど激しいはずなのに、そよ風程度にしか感じられなかった。全員の髪、服、マント、いずれも緩くなびいているだけだ。この魔法、真っ先に覚えよう。ヤバいときに速攻で逃げられる。  垂れ込める雲が途切れ、青く晴れ渡った空が俺たちを迎えた。さんさんと降り注ぐ日の光が、草の原を、小川を、遠くの山脈と森林を、そして俺たちを暖かく照らす。  俺は、生きているんだ。  今日、何度も死にそうな目に遭っただけに、穏やかな陽光は、俺に生の実感を噛みしめさせてくれた。なにもかもがすっ飛んでいく爽快感と重なって、ここへ来て初めて心地よさというものを味わった。  この景色、おっさんたちにも見せてやりたかったな。あの三人の……いや、四人だったか? まあいいや。
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