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ラ・ステージdeキョミズからの落価格、¥4219
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軒先に色とりどりの薬だかなんだかの瓶詰めを陳列して、小太りのオヤジが呼び込んでいた。
日本でもしあんな攻めた客引きしたら、つべでさらされて炎上必至だな。あのオヤジ、異世界じゃなかったら、首くくる(物理)になってるぞ。
「ラ・ステージdeキョミズから飛び降りそうな落価格、四二一九イェンだよ」
ここ清水寺まであんのかよ、ラ・ステージじゃねえよ、分譲マンションみたいな名前だな、「飛び降りそう」って飛び降りはしないんだ、もののたとえぐらい断言しろよ、ていうかなんだ「落価格」って、「落下」+「価格」か、どうでもいいわ、あと値段で遊ぶな。
散々、内心でツッコみを入れて苦笑していた俺の顔が、はたと固まる。
――思い出した。さっき自分の言葉のどこに引っかかったのか。
『死んだ子の歳を数えるな』
ここだ。
うちの親父の口ぐせ。理由はわからないが俺のなかで妙に反応するものがある。
そして目の前で声を張っているメタボな皮下脂肪オヤジの死亡不可避な売り文句「首をくくる」「死ぬ気」にも。
まただ。なんとなしに頭に浮かんだことや、周りから聞こえてくる言葉が変に気にかかる。
さっきからなんなんだ。どれも不穏当なものだけにいい気がしない。なにか連想しそうで喉もとまで出かかってるんだが。くしゃみが出そうで出ない感じと、不気味さ、ふたつの意味で気持ち悪い。
立ち止まったまましばらく考えてみたが、店のオヤジの「吊ってくくって処刑価格、もとい処分価格。絞まるのは俺の首だけでじゅうぶんだ。財布のひもは、うちのカミさんの頭と(ピー)ぐらいゆるゆるで寄ってらっしゃい見てらっしゃい」とのめちゃくちゃな口上に気が散ってしょうがない。路上で(ピー)とか言うな。こんな奴ばっかか、この世界。
まあ、考えても出てこないってことは、べつにたいしたことじゃないんだろう。どうせこれ夢だし。夢のなかでいろいろ心配して、全部むだだったってのはよくあるパターンだ。
俺は、火山の噴火で宇宙へ吹っ飛ばされた究極生命体の人のように、考えるのをやめることにした。
《現在、次の酒場のシーンまでの追加ストーリーを更新中です。うちの猫も「楽しみだにゃー」と言ってくれているので、皆さんもぜひ見にきてくださいねー》
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