異世界酒場で馬鹿さ活かせい

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異世界酒場で馬鹿さ活かせい

異世界に来てるのにいっこうに女の子が仲間になる気配がない件。アニメなら一話で切られても文句は言えない展開に俺は新システムを考案してしまう ――――――――――――――――――――――――――――――――  西部劇に出てきそうな、あの下半分がない両開きの戸を押し開いた。  昼間に回った店とは違って、広々とした構えだった。規模の大きいファミレスほどはあるだろうか。二階は壁伝いに廊下が渡されているだけで、ほとんどが吹き抜けになっており開放感がある。  何組かのパーティーが、あちこちのテーブルで飯と酒をかっ食らっていた。  俺は端のテーブルに着いた。すぐにウエイトレスのお姉さんがやってきてメニューを渡してくれた。  異世界ものにありがちなよくわからない謎の料理などではなく、肉料理や野菜の煮込みなど想像しやすいものばかりだった。  どれにしようかな、と選んでいると視線を感じた。横にスタンバったままのウエイトレスのお姉さんが、お決まりですか、とにこりほほえむ。え、なに、決まるまでずっと張りついてるの? そういうシステム?   優柔不断な俺は、お姉さんの視線に耐えながら必死でメニューと格闘した。  表が暗くなるにつれて客足が伸びはじめた。店内は加速度的に賑やかになる。盛況のようだ。料理が来るまでの間、ほかの冒険者たちを盗むように見まわしてみた。  戦士ふうの男を筆頭に、僧侶や魔道士の身なりをした者も多い。剣やら槍やら装飾の入った杖やら、思い思いの装備品を携えている。荒くれ者といった風貌の男が目だち、女は少なかった。ゲームやアニメなら男女比は同じか、むしろ主人公パーティーならハーレム状態というのが相場なんだが、この辺は無駄に現実的だな。  レベルはばらばらだが全員一桁台だった。あの完璧超人の人たちが言っていたように、たしかに初級者向けの街らしい。会話に耳をそばだててみたが、大したことのない奴らが集まっているにふさわしい、平穏な無駄話ばかり。魔王のまの字も話題にのぼらない。  まあ助かるっちゃ助かるんだけど。樹海のクソゲーじみたバランスのモンスターが徘徊してたら速攻詰む。その辺りは逆にセオリーどおりってことか。どこまでゲームやアニメの定石が通用するんだろーな、この世界。  酒場のむさ苦しい空気に俺はげんなりした。昼間の最初のパーティーもみごとに全員おっさんだったし。主要メンバーがそれで許されるのって洋画か時代劇ぐらいだろ。アニメの初回でやられたら一話切り余裕だ。で、ツイッターで「おっさんオンリーで草 五分で切ったわ」って叩くね。副アカウント全部使って。  あー、アニメ見てーなあ、一回帰れねーかなあ。てかこれ夢なのかなあ。起きたら現実に戻って、寝たらまた来られるとかのシステムじゃねーのかなあ、てかそうすりゃいいのに。  俺は頬杖をついて、増えていく男ばかりの客をぼけっとながめた。
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