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「ぐえぇっ」
口に広がるツンとした臭いと強い塩味。
その元凶は、塩化アンモニウムと甘草で出来ている。
「そんなにきつかった?」
「当たり前だろ。なんだこのゲテモノ、タイヤ舐めてるみたいだぞ」
フィンランド出身の彼女からの差し入れ。
オーロラが映える北欧の地で生まれた彼女は、サルミアッキと呼ばれるこの飴がどれほど凶悪な味か分からないらしい。
「チョコに混ぜるとおいしいよ?」
「冗談じゃねぇぞ、混ぜるならミント選ぶわ」
「えっ…歯磨き粉じゃん。やだよ」
「この石油みてぇな味がセーフなのにそっちはアウトなのかよ…」
相変わらずのヘンテコ基準。
出会ったときから変わり者という印象はあったが、このアルビノの少女を知れば知るほど、それが間違ってなかったと確信するようになった。
「全く、お子ちゃまだなぁキミは」
「ケチャップたっぷりのホットドック頬張りながら言われても説得力ねーんだけど」
「ぶー。マスタードだって付いてるもん」
「口の周りにたっぷりとな」
慌てて口を拭うも、最初からマスタードなんて付いてない。
赤い瞳がじーっと睨んでくるが、サルミアッキの恨みだ。
これぐらいの軽い仕返しをしてもバチは当たらないと思う。
「むむむ、そーいう意地悪よくないなー」
「サルミアッキを人に食わせる方がよっぽどテロだと思うね」
「ふーん。じゃあさ」
いたずらっぽい笑顔。
何をしでかすのか分からない時の彼女は、いつもこの顔だ。
すとん。距離が一歩縮まる。
背丈にそれほど差がないため、ちょうど顔が向き合う位置にあった。
改めて見ると、綺麗な目をしている。澄んだ真紅色だ。
吸い込まれるように、見つめてしまう。
だから仕方ないのだ。何かを口に含んだまま、唇を近づける彼女の挙動に遅れてしまったのは。
「ちょ、おま」
言い終えるよりも前に唇を塞がれた。
瑞々しく、柔らかな感覚。
それと同時に口内を満たすのは、さっき味わったばかりのあのタイヤ味だ。
心臓が二重の意味で跳ね上がった。
互いの口で溶け合うサルミアッキ。
「どう?甘くなったでしょ」
キスを終え、得意げな様子の彼女の頬は、その瞳に負けないぐらい朱に染まっている。
「…余計、タイヤ臭くなったっつーの」
口に広がるゴムの味。
サルミアッキのファーストキスは、どんな甘美なキスよりも深く、俺の脳裏に刻まれた。
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