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ああ、もうすぐ着く。
ここいらでは大切にされていると聞いたが、こんなに寒い日にも入り口には白い菊と黄色い菊が左右に一本ずつ供えてある。(花を供えても、すぐに凍ってしまうだろうに。)社は古いけれど、戸をひらくところがぴかぴかしているから、定期的に人が出入りしているのだろう。
ぴかぴかしたところに手のひらをあてて、ぐっと押してみる。水気の抜けた古い木は思いの外軽かった。黴と、かすかな埃のにおい。
固く凍った土を二、三歩踏むと、顔が見えてきた。
やわらかい石を削ったようで、所々欠けている。右耳なぞは、ほとんど無い。けれど、くちびるだけは欠けがなくふっくら残っていて、今にも動き出しそうだった。
「…なるほど。よい地蔵だ」
コートの裾をはらい、地べたにあぐらをかくと、さすがに尻がひやりとした。なんとなく、ここには長いこと居るだろうと思った。しばらく地蔵の顔を仰ぎ見ていたが、気づくと瞼を閉じていた。
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