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瞼の裏に、大輪の花が咲く。やあ、また逢ったね。と、胸の内で呟く。
花はひらりと花びらを落とす。落ちた花びらが、僕の盃に浮かぶ。僕はそれを飲み干す。
お地蔵さま。僕の見ているものが、あなたにも見えるんだろう。観音さまや、お不動さまや、たくさん会ってきたけれど、どうやらお地蔵さまが一番僕に寄り添ってくれるようだから。それに、あなたは少し、あの時の僕に似ているよ。
ねえ、お地蔵さま。僕の盃に浮かんでいたのは赤い花びらだった。僕らが着く、ほんの少し前までは欠けることなく美しくひらいていた大輪の赤い花。花は泣いていたよ。泣く花は美しかった。僕は少しも欠けているなんて思わなかった。けれどもかつての姿を知っていた周りの花々は、大輪の花を哀れんでずっと泣いていた。
ぶるると震える。指の先が痛くなってきた。
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