第一話 落ちた姫

2/4
前へ
/67ページ
次へ
私の名前は、さっき男二人組の会話にあった、堀 羽衣(うい)。15歳でシンガーソングライターとしてデビューするも、デビュー曲以来オリコントップ10入りしたことがない、鳴かず飛ばずの歌手。 ここ一年、新曲もリリースしてない歌手……って、それ歌手って呼んでいいのやら。 今はとある大学の教育学部に通っている。 教育学部に通っているからといって、教師になりたいとは微塵も思っていない。ただ、漠然とした将来への不安から何かしらの資格が欲しいと思っただけのこと。 ほんと、不安だわ……、いつになったら昔みたいに曲が書けるのか。 私がデビュー曲以来パッとしない理由は簡単。 私は曲を書く時、自分の決意や想いをそのまま歌にする。 それが、15歳でデビューして、その曲がいきなり大ヒットして世界が変わってしまって、心がその変化に追いつかずぐちゃぐちゃになってしまったから。 なんとか落ち着いて、二曲目を出したときにはもう遅すぎた。 世間は、もう私のことを忘れかけていた。 それからも曲は出していたものの、曲を出せば出すほど、自分の心が空虚になっていくのを感じた。 今の私の心にあるのは、言葉にすることができない漠然とした不安だけ。 今日も机の上の真っ白な五線譜の前で、ギターを抱えながら一文字も、音符の一つも書けず、五線譜は真っ白なまま時間が過ぎていく。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加