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『はっ!角かよ』
『兄ちゃん、ここはどう見ても、この桂馬をとっとくべきじゃねえのか?』
初老の男は、怒ったように言った。
『うーん、そうなんですか?』
と答えたのは、高校生くらいの色の白い男の子。
『そうだよ、わかってねぇなぁ』
『いやぁ、将棋始めたばかりなもんで…』
『まぁ、打っちまったもんはしょうがねえ、待ったなしだぜ?』
『はい、じゃあ、この手で行きます』
パチリ、パチリと盤面がすすんで行くと
当初、優勢に見えた初老の男のほうが、しだいに追い込まれていく
『おや、金さん、ずいぶん手こずっているようじゃないか』
『うるせぇ、こっから巻き返すんだよ!』
と、初老の男の知り合いとやりあっていると
『これで、どうでしょう?』
『…え?、あれ?』
『詰んでるね、こりゃ』
『…負けだ』
『ありがとうございました。』
『兄ちゃん、もう一回やろう!』
『すみません、今日はこの後用事があって…』
『なんだよ兄ちゃん、勝ち逃げかよ』
『いえ、本当にもう行かないと行けないんです』
『おう、じゃあ次会ったら、またやろうぜ。今度は負けねぇからな!』
『はい、その時はぜひお願いします。』
と、言い残し帰っていく男の子。
『さて、じゃあ俺も帰って風呂でも行くか』
男は、一度家に帰り、銭湯に入ってから涼みがてら、TVで放送していた将棋の対戦を見ていた。
『おや、この打ち方、どこかで…?』
と気になっていると
『おや、金さん。またあったね』
『うるせえ、またあったもなにも、家がすぐ近くじゃねえか』
『ま、そうなんだけどね。また将棋かい?好きだねえ』
『ああ、ちょっと気になってな』
『あ、終わったようだね』
アナウンサーがいう
『おめでとうございます。史上最年少で名人連破とはすごいですね』
ここでTVを見ていた二人は『あっ!』と声を上げる。
どこかで見たことのある、色白の男の子が写っていたからだ。
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