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幸福讃頌
A「おや。ウチの弟は今日も朝帰りですか」
B「また人聞きの悪い……姉さんこそ今やっと帰り? もう、働きすぎだよ」
A「私はパン屋の帰りだよ。疲れて帰ってくる弟に、出来たての美味しい朝食を食べさせたくてね」
B「……家からパン屋へ行ったにしては、手が冷たすぎる。仕事帰りに、そのまま寄ったんでしょ?」
A「そういうの、分かったって言わない方がかわいいぞー」
B「かわいくなくて結構だし。それ、はんぶんこしようよ?」
A「いや、私はもう食べ……」
B「──食べて、ないでしょ?」
A「……本当にかわいくない」
B「なんとでも。ついでだから、僕そこで飲み物買ってくるよ」
A「1個でいいからね?」
B「そうだね。飲み物もはんぶんこでいいか」
A「そういう意味じゃないんだけど」
B「姉さんがそうしてくれたみたいに、僕だって淹れたてのあったか~いヤツ用意してあげたいの!」
言うが早いが、彼は店へと駆け出していく。
その場に残され待ちぼうけながら、朝日を浴びて羽ばたく鳥たちを眺めた。
A「……君たちにも分けてあげようか?」
この出来たての、パンの欠片を。
私の心を一瞬で温めた、小さな幸せを。
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