君に誓う

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 シャツを着てネクタイを締める。ノットの形を整えて適当に鏡の前で髪に櫛を通した。瓶の中から真っ白な錠剤を三粒取り出し口に放り込む。苦い味が舌に残るが、構わず水で流し込んだ。  鏡に映るのは日に焼けない白い肌を持つ、男にしては貧相な人間だ。真っ黒の瞳は切れ長でノンフレームの眼鏡がより一層冷たい印象を見る人に与えるが、瞳と同じ漆黒の髪は艶やかで卵型の顔は年齢を曖昧にさせた。筋肉のつかない細身の身体は身長も百七十と平均的で、オメガとベータのどちらともとれる身体をしている。だが顔はオメガ寄りだろう。  一つため息をついて、楓はベストを羽織り鞄を持った。胸元にタブレットケースが入っているのを上から握りしめて確認する。  容姿がどうであれ、楓はオメガだ。その事実を覆すことはできない。だが幸いにもヒートと呼ばれる発情期は軽い方で、抑制剤で対処できるほどだ。ゆえに楓は誰とも肌を合わせたことはない。アルファの人間は何人か知っているが、彼らに近づいても理性が無くなることはなく、身体が熱くなることもなかった。そのおかげか、楓がオメガだと知っているのは、今は亡き両親と薬を処方してくれる主治医・それから無二の友くらいだろう。友人たちも、会社の同僚も、皆が皆楓はベータだと思っている。その勘違いを正そうとも思わなかった。オメガは何かと不便だ。勘違いしてくれているなら、そのままの方が都合が良い。  革靴を履いてドアノブに手をかける。 「……いってきます」  それに返してくれる声はない。シンと静まった室内を残して、楓は外からガチャリと鍵をかけた。
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