君に誓う

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「お帰りなさいませ。もう会食は終わられましたか?」  言いながら悠は車のドアを開けて影が乗り込むのを待つ。影は無言のまま車に乗り込んだ。悠が丁寧にドアを閉めて、自らも運転席に乗車する。 「ではこのままご自宅までお送りしますね」  返事が返ってこないことを前提として悠は車を走らせた。会食の後は機嫌が悪いことの方が多い。その理由がわかっているだけに、悠はどうこうと言うつもりはないが。 「さっきの彼は――……」  思いがけず紡がれた言葉に悠はしばし戸惑う。 「彼、とは?」 「先程君が手を振っていた……」  あぁ、と納得して悠は車を運転しながら口を開いた。 「私の古い友人です。お互い時間が合わずなかなか話をする機会もありませんが。先程偶然見かけたもので声をかけたのです。それが、いかがいたしましたか?」 「……――いや」  それ以上を言うつもりはないのか、上司の男は無言で窓の外へ視線を向けた。流れる景色を見ているようで、その実見ていないことを悠は知っている。考え事か、だとするならば何を考えているのだろう。会食の事か、それとも話の流れ的に楓のことか。  楓がオメガであることをアルファである悠はもちろん知っていた。だが発情期と思われる時でもほんのわずかしか匂いはせず、常などはオメガと認識していなければベータと間違うほどだ。元々オメガとしてのフェロモンが薄いのか、抑制剤がよく効く体質なのかはわからないが、楓が近くにいて悠が熱に浮かされたことはない。  だが、と悠は考える。今考えこんでいる上司もまたアルファだ。それも悠など太刀打ちできないほどに強大な力を持つアルファ。そんな彼が楓のことをほんの一瞬でも気にしたことが、どこか悠には引っかかった。
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