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わたしが住む県では、公立高校のほうが偏差値が高い。私立高校は、全寮制のエリート進学校が一校ある以外は、公立高校のすべり止めとして受験する感じだ。
木場山から通える高校もある。でも、大学に進むことを考えているなら、木場山を出て町に住んで、進学校である公立高校に通うのがいい。
わたしはそっぽを向いたまま、顔をしかめた。
「二年も先のことなんて、わかんない」
「たった二年じゃん。受験勉強は早めにキッチリやっとかなきゃいけないし、おれやひとみみたいに木場山から出たいって考えがあるなら、なおさらだ。下宿をどうすればいいのかとか、親や先生たちとも話し合って情報を集めないと」
また、わたしは引け目を感じた。わたしは何の苦労もしなくても、ちょうどのタイミングで親が町のほうに転勤になった。親の転勤にくっついているだけで、大学進学に有利な公立高校の近くに住むことができている。
ふと、グラウンドのほうから大声が聞こえてきた。
「雅樹ー! ランニングの途中でサボるんじゃねぇぞ! 一年に示しがつかねぇだろうが!」
「ヤベ、部長に見付かった。じゃあな、蒼!」
雅樹はすごいスピードで、陸上部が輪を作っているほうへ走っていった。風が動いたとき、かすかに汗の匂いがした。
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