一 中学二年生:転校と不登校

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 珍しいシーンだったな、と気付いた。中学に上がってから、わたしと雅樹は、学校では一対一で話したことがなかった。ケンカをしていたわけではなくて、噂になるのを避けるためだった。  不思議なことに、別の小学校出身の子たちの目に映る雅樹は、わたしや同じ小学校出身の子たちが知っている雅樹とは、どこか違っていた。雅樹の顔が整っているのはわたしも認めるけれど、「カッコいい!」っていうのは違う気がしてしまう。  他校の子にそれを言うと、全力で否定された。「学年でいちばんカッコいいよ!」って。  雅樹は顔がよくて、成績も運動神経もよくて、しゃべるとおもしろい。頼まれればイヤとは言わないから、リーダー的なポジションに就くこともある。まあ、雅樹だったら目立って当然なのかなって、木場山を離れた今になって急にわかった気がする。  木場山中学校と書かれた門柱に背中を預けてぼんやりしていたら、制服姿のひとみがグラウンドから飛び出してきた。 「蒼ちゃん! お待たせ!」  ああ同じだ、と思った。ついこの間まで、毎日こんなふうだった。バレー部のわたしのほうが部活上がりの時間が早くて、合唱部のひとみを校門のところで待っていた。  でも違うんだ、とも思った。わたしは私服だし、グラウンドに入りづらくて門の外にいた。待ち合わせの場所は、門からいちばん近い桜の木のそばだったのだけれど。     
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