プロローグ

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 ダイエットをしている人、食べ歩きが趣味の人は、ドキリとするかもしれない。呪いの言葉のように「ダイエット」が付きまとっているのを感じるとか、食べ歩きをしても楽しさより罪悪感があるとか、もしそうなら、立ち止まって自分と向き合ってみてほしい。  食べることと生きることは、とても近い。食事のバランスやリズムに意識を向ける余裕がないとき、もしくは食べることでしか自分が満たされないと感じるとき、きっと生活がうまくいっていない。どこかの歯車が噛み合っていない。  わたしは中学生のころから、歯車の噛み合わない人生を送ってきた。そろそろ二十年。まさかこの年齢まで自分が生きているとは想像もできなかったし、今でもまだ、消えてしまいたい願望はある。  でも、消えるにはまだ早い。達成していない目標があるんだから。  目標というのは、小説だ。  小説を書きたい。小説家と名乗りたい。一つのコンテストで入選しただけでは、まだ少しも満足できない。筆を折るのは人生をやめるときだ。書きたいものがあるうちは、わたしは生き続けなければならない。  これからここで語るのは、嘘の物語だ。わたしの経験してきた人生に似ているかもしれないし似ていないかもしれない、事実の種明かしをする予定のない、嘘の物語だ。  主人公の名前を「蒼(あおい)」としよう。思い出のある名前なんだ。小学生のころに思い描いていた、人間のふりをして学校に通う人魚のストーリー。その主人公の名前が、蒼だった。     
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