二 中学三年生:償いと分岐点

2/56
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/348ページ
 短くて重たい電話を終えた。わたしはそのまま呆然と座り込んだ。  わたしに何ができるんだろう、と考えた。智絵のために何かできないだろうか。わたしにできることって、何だ?  智絵は、わたしに会える状態じゃなくても、わたしの小説だったら読んでくれるかな? 喜んでもらうこと、できないかな? 一時でもいいから現実を忘れるための助けにならないかな?  始業式の日、一人で登校した。生徒玄関の前に人だかりができていた。クラス分けの表が貼り出されているせいだ。  授業中にだけ掛けるメガネをカバンから取り出して、レンズ越しに人の頭の後ろから、クラス分けの表を見る。智絵とは別のクラスになっていた。  二年のころのクラスで幅を利かせていたグループはみごとにバラバラになったらしい。ぎゃーぎゃー騒いでいる人たちに巻き込まれないように、わたしは人だかりから離れた。  三年の靴箱の場所がわからなくて、ちょっと迷う。一年のころからいたわけじゃないから、琴野中の常識がわたしには欠けていて、不便だなと、ときどき感じる。智絵がいたら、教えてくれたのだろうけれど。  ふと、呼ばれて顔を上げた。 「蒼さん」  上田がいた。わたしはちょっと目を合わせて、すぐに顔を背ける。     
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!