二 中学三年生:償いと分岐点

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二 中学三年生:償いと分岐点

 春休み、一度も智絵と会えなかった。  会おうとしてみた。智絵の家に電話をかけた。何度もかけて、やっとつながったとき、疲れ切った声のおかあさんがわたしに告げた。 〈智絵は入院してるの。新学期が始まるまでには退院する予定だけど、学校は……〉  そのとき初めて事態の大きさを知った。智絵は、教室に行けないだけじゃないんだ。心も体も壊れかけている。入院しないといけないほどボロボロなんだ。 「お見舞いに行ったら、ダメですか? 会えませんか?」  答えが来る前に少し間があって、結局、断られた。 〈ごめんね。蒼ちゃんとなら、智絵は会うと思うけど、今はちょっと……〉 「わかりました」 〈小さな刺激に対しても敏感になってしまって、すぐに体調がおかしくなるのよ。吐いたり、脱水症状になるほどおなかを壊したり。もう、どうしてあげればいいか、わからない〉  ごめんなさい。  ただそれだけを思った。ごめんなさい、と。  目の前で智絵がいじめられていた。わたしは何もしなかった。何もできなかった。いじめを止めることも、智絵と一緒にいることさえ、しなかったしできなかった。自分のことで精いっぱいだった。智絵はわたしと友達になってくれたのに。     
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