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商店街の周辺は、昔から商人が集まり今ほどではないが店が建ち並んでいた。
いつも賑やかで、活気のある町だった。
そんな町が戦争の空襲によって焼け野原になった。
一面火の海となって、逃げ遅れた人たちは焼け死んでしまった。
道端には、たくさんの犠牲者で横たわっていた。
一目見れば、その人が苦しみながら亡くなったことがわかる。
チヨさんの弟も、犠牲者の中の一人だった。
防空壕まで逃げる途中で、弟は焼夷弾の火に焼かれてしまった。
焼けた遺体はみんな真っ黒こげで、誰が誰だかわからない。
弟の体もほとんどが炭のようになっていたが、片足が瓦礫の下敷きになり焼けずに残っていた。
だから、弟の骨は家に持って帰ることができた。
ほとんどは身元が分からず、骨になっても自分の家に戻れなかった。
その点では、弟は幸せだったとチヨさんは言った。
どこにも行けず、家にも戻れず、未練だけを残した魂は戦争が終わっても無数に彷徨っていた。
目撃談も数知れず、辺りにはなぜか火事で亡くなる人が多かった。
そのせいもあって、付近はしばらく復興が出来ずにいた。
そこで、その霊たちを少しでも鎮めるためにお地蔵様を祀ったことが始まりだった。
お地蔵様のおかげで彷徨う霊も減り、小さな店がぽつりぽつりと出来ていき、今の商店街となった。
「弟もね、お饅頭が大好きだったの。私ら家族はみんな餡子が大好き。孫の舞子ちゃんも、ケーキよりも和菓子が好きだって」
チヨさんはそう言って笑った。
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