和菓子屋

5/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
それから数か月が経ったある日、ランドセルを背負った舞子ちゃんが一人で店にやってきた。 「お饅頭二つください」 舞子ちゃんの近くにはチヨさんの姿はなく、私は「今日はおばあちゃんと一緒じゃないの?」と尋ねた。 すると、舞子ちゃんはチヨさんのものなのか、小さながま口から小銭を出しながらポロポロと泣き出した。 「おばあちゃんね、この前天国に行っちゃったの。もう会えないの」 それを聞いて驚いた。 前に来た時は、あんなにも元気そうだったし、舞子ちゃんの晴れ着姿を見るまで死ねないと言っていたのに。 私は、すごく悲しい気持ちになった。 「お姉ちゃん、ごめんなさい。お金が足りない」 そう言うと、舞子ちゃんは手に持っていた小銭をすべてトレイの上に広げた。 確かに、饅頭二つを買うには五十円ほど足りなかった。 けれど、私は「いいよ。今日はお姉ちゃんが買ってあげる」と小銭をがま口の中に戻して、饅頭を二つ舞子ちゃんにあげた。 「ありがとう。お姉ちゃん」 舞子ちゃんは私に頭を下げると、そのままお地蔵様のところへ歩いて行った。 そして、お地蔵様の前に饅頭を一つ置くと、両手を合わせて合掌した。 今ではこの商店街を歩く人々ですら、そう気にすることのないお地蔵様。 お供え物は、いつの間にかなくなっている。 きっと通行人の誰かが持って行ってしまうのだろう。 なのに、こんなに小さな子がお地蔵様にお供え物をして、手まで合わせている姿を見て、感慨深く思った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!